
界面における分子工学
キーワード:分子組織,界面物性
分子が集合して組織となり,その組織が機能を発現する。界面で形成さる組織構造を研究の中心におき,以下の二つの方向性で研究を進めています。
1. 表面・界面を構成する分子の化学構造と組織構造の関係
2. 表面・界面におけるミクロな物性がどのようにマクロな挙動を決定するのか検証
界面すべり現象
Interfacial slip phenomenon
界面すべり現象
固体と接する液体が流れるとき,その移動速度は,固体と接触している液体(分子)が強固に接着しているか,あるいは可動性なのかに依存します.われわれは,金属表面の吸着層によって界面すべりをコントロールすることを研究しています.
この研究成果は,狭小空間での液体流動が関連する系(マイクロ流体デバイス、自己駆動システム、分子ロボット,次世代コンピュータや診断技術など)に貢献する技術開発となります.

固液界面に形成される分子膜
Molecular layer formed at the solid-liquid interface

潤滑性能を向上させる分子膜
油による“潤滑”においても,肉眼で確認できるような巨視的なスケールやµmスケールで生じる現象に起因する要素が検討されています化学分野で研究しているわれわれが注目しているのは,さらに小さなnmスケールで潤滑油添加剤が金属表面で形成する吸着分子層です.この吸着分子層を形成する分子の種類ならびにそれらが金属表面での組織構造が潤滑に及ぼす効果を議論しています.
水晶振動子微量天秤法
適切な形状の水晶振動子は交流の電圧を印加すると厚みすべり振動により,一定の周波数で振動します.この周波数は水晶の厚みに依存し,薄いほど高周波数で発振します.水晶振動子が時計の時間源として使用されていますが,(いくつかの単純化した仮定を用いれば)水晶表面への物質が吸着した際に計測される振動数低下から付着物質の質量と相関させることができます.この水晶振動子の周波数変化を検出することにより,電極上への吸着量を計測する方法を水晶振動子微量天秤法(QCM法)と呼びます.


複素アドミッタンス スペクトル測定
さらに一歩進んだ水晶振動子の利用法として,液中での水晶振動子の発振挙動を複素アドミッタンススペクトル測定から評価しています.アドミッタンスの実数成分であるコンダクタンスの周波数特性(左図)から共振周波数frと半値幅(FWHM)を計測し,散逸係数D(=fr/FWHM)と求めます.この値は,発振している振動子の運動エネルギーが周辺環境へ散逸する程度を見積もる指標になります.運動エネルギーが水晶振動子から液体に移動する経路に存在する吸着分子層の特徴が反映されます.
ある添加剤を加えた油中では,コンダクタンス曲線の低周波数シフトと広帯化が観測されました.表面の形態観察や付着物の組成分析から,電極表面に形成された針状結晶の編目構造が有機溶剤をとりこんで,高粘性のオルガノゲルとなっていることを示しました.
この層の厚みは数百nmにまで成長している場合もあり,単分子吸着層(膜厚2 nm程度)よりはるかに厚い被覆層で金属表面が保護されていることを明らかにしました.


単分子膜中の配向異方性
ブルースター角顕微鏡観察


単分子膜中の配向異方性を可視化
水面に浮かぶ1-モノパルミトイル-rac-グリセルール(MPG)単分子膜の膜厚は1~2 nmにすぎません。BAMを利用すれば,この超薄膜の中で分子鎖の配向方向が異なるサブドメインがStar defectを中心に分布している様子を観察できます。
単分子膜の摩擦力異方性

分子の「芝生」をなぞってみれば
トポ像(形状像)では平滑にみえるMPGの単分子累積膜も水平力像(摩擦力像)でみれば明確なコントラストが観察されます。分子鎖の傾き方向に依存して摩擦力が大よそ3割変化するということを見出しています。

巨視的挙動と微視的挙動の差
芝生の上や毛皮のように一定の方向に繊維状の組織が揃っている上をなぞると,毛並みに沿った方向の方が摩擦力が低くなることが想像できるでしょう。
分子の「芝生」をなぞってみると,逆に配向方向に逆らって探針を走引するときに摩擦力が最小となります。
巨視的挙動と微視手挙動が異なる興味深い例です。
PET繊維表面への高分子電解質多層膜の積層
繊維の表面改質技術
PETフィラメントのナノ被覆
繊維表面に新たな機能を付与する被覆膜には,
・繊維の元々の力学的特性を損なわずに新たな機能を追加する
・洗濯耐久性や摩擦堅牢度に優れる
といった基本性能が要求されます.

高分子電解質の交互積層(LbL法)
高分子電解質のナノ薄膜を積層する方法として交互積層法は,1990年代後半から広く研究されています.
より複雑な構造体である布帛を構成している各フィラメント上に,薄くて丈夫な高分子電解質多層膜を積層する技術を開発しています.



超分子集合体薄膜
Supramolecular assembled film
超分子集合体薄膜とは
共有結合以外の弱い結合で繋がって「分子」のように動く集団を超分子と呼びます。
ここでは,その超分子を単分子膜のように集めた超分子集合体薄膜について紹介します。
界面での包接反応

ホスト分子の水溶液の上に疎水性のゲスト分子を滴下すれば気水界面で包接反応が進行して,両親媒性の超分子が単分子状に集積する。
超分子集合体薄膜
競争的に進行する界面での「包接反応」と「凝集反応」を適切に制御すれば,均質な膜が大面積で調整可能です。


分子ベアリング膜
ホスト分子の中でゲスト分子が回転できるという特徴を活かせば,夢が広がります。

電子線グラフト重合
繊維の表面・バルク改質技術

透過性の高い電子線
放射線の一種である電子線は,高い透過性を示します。例えば250 kVの加速電圧で加速された電子線は,密度が1 g/cm^3の媒質に対して大よそ500 μmも浸透することが可能です。
電子線グラフト重合
繊維に浸透した電子線が繊維中の高分子の共有結合を切断し,活性種(ラジカルおよびイオン)を生成します。結晶内部で生じた活性種が連鎖移動を繰り返し結晶表面に到達すると,結晶粒界でのグラフト重合の開始種になります。


電子線グラフト重合を行った不織布の断面
片側から電子線を照射した場合,照射側では多くのモノマーが重合し,フィラメントが膨潤することもあります。
モノマーがフィラメント表面だけでなく内部でも重合しているために,電子密度が一様な断面として観察されています。
高分解能3DX線顕微鏡観察
高分解能3DX線顕微鏡を使って観察した結果です。厚みが600-700 μmの布を加工した場合,照射面側の繊維が膨張しているのに対して,反対側の表面にあるフィラメントが未加工とほぼ同じ繊維径のままであることが分かります。
吸収線量分布とよく対応しています。


SURVIVED RADICAL POLYMERIZATION
初期の再結合を逃れた結晶中のラジカルは低温保存すれば長期に保存可能です。照射時の重合後に保存しておけば,異なる条件で重合を再開することも可能で,多種の分子鎖が生長します。