界面における分子工学
キーワード:分子組織,界面物性
分子が集合して組織となり,その組織が機能を発現する。界面で形成さる組織構造を研究の中心におき,以下の二つの方向性で研究を進めています。
1. 表面・界面を構成する分子の化学構造と組織構造の関係
2. 表面・界面におけるミクロな物性がどのようにマクロな挙動を決定するのか検証
超分子集合体薄膜
Supramolecular assembled film
超分子集合体薄膜とは
共有結合以外の弱い結合で繋がって「分子」のように動く集団を超分子と呼びます。
ここでは,その超分子を単分子膜のように集めた超分子集合体薄膜について紹介します。
界面での包接反応
ホスト分子の水溶液の上に疎水性のゲスト分子を滴下すれば気水界面で包接反応が進行して,両親媒性の超分子が単分子状に集積する。
超分子集合体薄膜
競争的に進行する界面での「包接反応」と「凝集反応」を適切に制御すれば,均質な膜が大面積で調整可能です。
分子ベアリング膜
ホスト分子の中でゲスト分子が回転できるという特徴を活かせば,夢が広がります。
単分子膜中の配向異方性
ブルースター角顕微鏡観察
単分子膜中の配向異方性を可視化
水面に浮かぶ1-モノパルミトイル-rac-グリセルール(MPG)単分子膜の膜厚は1~2 nmにすぎません。BAMを利用すれば,この超薄膜の中で分子鎖の配向方向が異なるサブドメインがStar defectを中心に分布している様子を観察できます。
単分子膜の摩擦力異方性
分子の「芝生」をなぞってみれば
トポ像(形状像)では平滑にみえるMPGの単分子累積膜も水平力像(摩擦力像)でみれば明確なコントラストが観察されます。分子鎖の傾き方向に依存して摩擦力が大よそ3割変化するということを見出しています。
巨視的挙動と微視的挙動の差
芝生の上や毛皮のように一定の方向に繊維状の組織が揃っている上をなぞると,毛並みに沿った方向の方が摩擦力が低くなることが想像できるでしょう。
分子の「芝生」をなぞってみると,逆に配向方向に逆らって探針を走引するときに摩擦力が最小となります。
巨視的挙動と微視手挙動が異なる興味深い例です。
電子線グラフト重合
繊維の表面・バルク改質技術
透過性の高い電子線
放射線の一種である電子線は,高い透過性を示します。例えば250 kVの加速電圧で加速された電子線は,密度が1 g/cm^3の媒質に対して大よそ500 μmも浸透することが可能です。
電子線グラフト重合
繊維に浸透した電子線が繊維中の高分子の共有結合を切断し,活性種(ラジカルおよびイオン)を生成します。結晶内部で生じた活性種が連鎖移動を繰り返し結晶表面に到達すると,結晶粒界でのグラフト重合の開始種になります。
電子線グラフト重合を行った不織布の断面
片側から電子線を照射した場合,照射側では多くのモノマーが重合し,フィラメントが膨潤することもあります。
モノマーがフィラメント表面だけでなく内部でも重合しているために,電子密度が一様な断面として観察されています。
高分解能3DX線顕微鏡観察
高分解能3DX線顕微鏡を使って観察した結果です。厚みが600-700 μmの布を加工した場合,照射面側の繊維が膨張しているのに対して,反対側の表面にあるフィラメントが未加工とほぼ同じ繊維径のままであることが分かります。
吸収線量分布とよく対応しています。
SURVIVED RADICAL POLYMERIZATION
初期の再結合を逃れた結晶中のラジカルは低温保存すれば長期に保存可能です。照射時の重合後に保存しておけば,異なる条件で重合を再開することも可能で,多種の分子鎖が生長します。